2009年10月10日号 広報ふじさわ…市長対談・市民の広場  〔 1 / 4 page 〕

●第57回投稿テーマ「旅の思い出」

負の遺産を巡る旅

■立石在住

星野(ほしの) 英俊(ひでとし)さん(48歳)

▲原爆ドームと筆者(平和記念公園にて)
▲原爆ドームと筆者(平和記念公園にて)

 第二次世界大戦中の悲惨な出来事を伝える遺跡として、ポーランドのアウシュビッツ・ビルケナウ強制収容所とともに、広島の原爆ドームが世界遺産に登録されている。いわば負の世界遺産というわけだが、人類初の原爆投下により壊滅した広島に残されたこの原爆ドームが、もし人類にとってさして価値のないものとなってしまったら…と考えると、この負の遺産は逆に人類が未来に生き延びていくための試金石となる希望の遺産とも思えてくるのである。

 今年4月に、プラハで米国オバマ大統領が「核兵器を廃絶していこう」という演説を行った。この演説からは地球温暖化の問題なども含め、これまでの考え方をみんなで「チェンジ」していこうというメッセージが伝わってきた。

 私はこの演説を聴いて、沖縄のリゾートに行くつもりだった夏の家族旅行を、広島を含む山陽方面に勝手に変えてしまった。沖縄へ行くのを楽しみにしていた小学6年生の娘からは当然不満も出たが、演説に感動した私は次代を生きる娘に核兵器の恐ろしさなどを具体的に知ってもらいたいという強い思いに突き動かされていた。

 広島ではまず、爆心地に近く、避難所になった小学校に設置された資料館を訪れた。ここでは被爆後に学校の壁に残された、肉親の安否を尋ねる伝言の跡などを見た。

 また多くの外国人でにぎわう原爆ドーム(旧広島産業奨励館)を見た後、「原爆の子」の像や原爆死没者慰霊碑がある平和記念公園内を歩き、平和記念資料館を見学した。ここでは、予約していたピースボランティアの方に2時間以上にわたり丁寧に案内をしていただいた。今回の見学で最も印象深かったのは、原爆が投下された当日に撮影された広島市街の写真だった。髪の毛や衣服が焼け焦げた人たちの表情からは、底知れぬ恐怖と絶望とが十二分に伝わってきた。

 考えてみると、核兵器自体の破壊力、放射能の副作用などというものも、自然破壊による地球温暖化同様、文明の負の遺産といえるだろう。私は、今回の旅行を経て、広島・長崎の原爆被害についてさらに深く知らなければならないと感じ、負の遺産を巡る旅をこれからも続けていきたいと思った。