2013年3月10日号 広報ふじさわ…市民の広場  〔 1 / 2 page 〕

校長先生から「似顔絵」の贈り物

〜卒業生221人、ひとりひとりの未来にエール

 卒業する6年生全員に校長先生が描いた「似顔絵」が手渡される。新しい門出を祝う、世界でただひとつの記念品だ。

「想像以上に大変(笑)」連日深夜、自宅で描く

 六会小学校の海保校長先生が似顔絵を描きはじめたのは5年前。校長として初めて赴任した秋葉台小学校で、前任の校長先生が卒業生に「書」を贈っている、と聞いたことがきっかけだった。

 「わりと得意な似顔絵でも描くか、と思って始めたのですが、想像以上に大変でした」と笑う。

 鉛筆で下書きをした上から、ロットリングペンで本描き。それから色鉛筆で丁寧に彩色する。奥さんが下書きの消しゴムがけを手伝ってくれるが、それでも1人分を仕上げるのに1時間以上はかかる。

 卒業生が120〜130人の秋葉台小学校でも大仕事だったが、新たに赴任した六会小学校は県内トップクラスの大規模校。一学年200人以上の似顔絵は無理、と断念しようとしたが、「校長先生、六会小では描いてくれないんですか」というお母さんたちの声に押され、続けることになった。

 卒業式に間に合わせるために、冬休みに入った日に制作をスタートする。3学期に入った今も、週末や休日を費やして、自宅の机でコツコツと似顔絵を描き続けている。

この春で自身も卒業思い浮かぶものは…

 海保校長先生は、この春で定年退職。子どもたちとともに自身も卒業する、特別な春を迎えようとしている。「不思議とさみしいという気持ちはないんです。ただ、やたらと教え子のことが思い出されてね」。大けがを負いながらも甲子園の夢に向かって努力を続けた子、先生の何気ない一言で教師の道を目指した子……。

 若い時から、授業だけでなく放課後のスポーツ活動や遊びの時間も子どもたちとともに過ごしてきた。子どもの心をひきつけ、距離を近づけるためには、教師の方から積極的に子どもや地域に関わることが大事、と話す。

 「こっちから元気に声を掛けてあげると、元気に返してくれる。はじめはうまくいかなくても、そのうち積極的に自分の話をするようになってくれるんですよ」。

 校長となった今も、休み時間はいつも校長室のドアを開けてある。元気よく1年生が走り回ったり、高学年の女の子たちがおしゃべりに花を咲かせているのが日常の光景だ。

 応接机の上にはお絵かき用の紙と色鉛筆が置いてある。校長室の壁は、子どもたちが先生に描いてくれた絵や作品でいっぱいになった。

ひとりひとりの未来に「しっかりやれよ!」

 海保校長先生にとって、週末の深夜から明け方にかけては最も重要な似顔絵の時間。退職を控えてさまざまな思い出が心に浮かぶ中、この時間が海保先生にとって特別なものになっている。

 「『魂を入れる』とはよく言ったもので、最後に目を入れると、急に活き活きとしてくるんですよ」。描き上がると、しばらく絵を眺めて、「この子はこの先、どんな人生を歩いていくのかな」と思いをはせる。

 深夜、先生は絵に向かって「この子は中学校でソフトテニスをやると言ってたなぁ。途中でやめるなよ」「しっかれやれよ」と、短いおしゃべりをするようになった。絵の中の子どもたちは、みんなりりしい目をしている。「大丈夫だよ!任せて!」と頼もしく答えてくれているような気がする。

 「うん、信じてるよ」。ひとりひとりに答えて、次の子の絵に取り掛かる。


▲海保大司校長先生(六会小校長室にて)


▲色紙に描かれた1クラス分の似顔絵