2013年1月25日号 広報ふじさわ…市民の広場  〔 1 / 1 page 〕

まちの話題 母が自分を支えてくれたように
〜鵠沼在住のピアニスト、音楽家の夢を応援


▲青山夏実さん

クラシックを身近にロビーコンサート

 奇数月第3水曜日の昼下がり。市役所1階には、市内在住の音楽家が奏でるクラシック音楽とともに、優雅なひとときが流れる。今年で24年目を迎える「ロビーコンサート」だ。

 「都心に行かなくても質の良い音楽を聴いていただき、市内の演奏家にも発表の場を」と語るのは、発案者である青山夏実さん。ピアニストとして活躍する傍ら、地域のさまざまな音楽活動を支え続けてきた。

 その原点は、母と一緒に歩いてきた青山さん自身の音楽家人生にある。

母と二人三脚で歩んだ音楽人生に感謝

 「私と母、母と私。いつも二人三脚でした」と青山さん。「ピアニストを目指していた私に対して、母はとても厳しかった。その母の想いに応えてきたから、夢をかなえることができました」と振り返る。


▲熱心なファンも多いロビーコンサート

 物心ついた頃から、寝る時間、遊ぶ時間よりレッスンを優先するのは当たり前。朝も晩も完璧に弾けるようになるまで何十回でも同じフレーズを繰り返した。

 どれだけ練習を重ねてもほめられることはなかったが、母が自分に求めていること、愛情を持ってくれていることは、言葉に出さなくても伝わる。2人の夢は「いつかカーネギーホールでリサイタルを開く」こと。夢のための努力を、つらいと思ったことはなかった。

 2007年、ついに念願のカーネギーホールでのリサイタルを開催。残念ながら晴れ舞台を目にする前に母は亡くなってしまったが、青山さんには「よくやったね」と喜んでくれているのがわかった。

 「人生に、感謝をしています」と青山さん。

 病床で、もう声を出す事ができなくなっていた母が、練習にでかける青山さんに向かって「が・ん・ば・っ・て」と懸命に唇を動かしてくれた姿が忘れられない。


▲「青山夏実おんがく基金」による
ニューヨークでのレッスン

夢をつかむチャンスを「おんがく基金」で支援

 「母が私にしてくれたように、夢を持ち続ける後進の音楽家たちの支援をしたい」…その想いから、青山さんは全国でも珍しい私設の音楽家支援基金「青山夏実おんがく基金」を設立した。

 毎年2人の音楽家をオーディションで選び、合格者はニューヨークで開催される音楽フェスティバルに参加。約1週間の滞在中に、講義や個人レッスンを受けられるほか、名門スタンウェイホールでのステージ演奏も経験できる。第1期生には、城島恵子さん(ピアノ)、市倉麻理さん(声楽)が選ばれた。

 「海外での経験は、音楽人生において大きなプラス。夢を実現するきっかけをつかんでほしい」と青山さん。2期生が選ばれる今年には、ジョイントコンサートも開催する予定だ。

真剣に音楽を続ける人に地域で活躍の場を


▲スタンウェイホールでの演奏会にも参加

 「藤沢には『音楽の宝』がいっぱい埋まっているんです」と青山さん。

 たとえばロビーコンサート。子育てで活動を休止していたピアニスト、70歳を過ぎてなお歌い続ける声楽家など、さまざまな音楽家が拍手を集めている。「真剣に音楽を続けている、でも活躍のチャンスがない人に、少しでも演奏を披露する機会を提供できれば」と裏方で地道な支援を続けてきた。

 青山さん自身も時間の許すかぎり会場に足を運び、時には伴奏者として一緒にステージを作り上げる。「いい演奏だったね。また次も聴きにくるよ」という観客の笑顔がいちばんうれしい。

 青山さんが母と2人で温め続けた、音楽への真剣な想い。その想いが、今では多くの演奏家の夢を育てている。