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公募終了しました

【審査結果】制作・展示支援プログラム「Artists in FAS 2023」

6月2日に、Artists in FAS 2023の入選アーティストを選出する審査会を行いました。

審査員の小林耕平氏と保坂健二朗氏が滞在制作および作品プランが記入された応募書類等に目を通し、それぞれ十数名程の候補者を選出しました。その候補者の中から審査員が協議し、4名(組)の入選者を決定しました。

◼︎入選(敬称略、50音順)

小島 平莉(こじま・へいり) 神奈川県在住

宍倉 志信(ししくら・しのぶ) 神奈川県在住

メランカオリ(めらんかおり)茨城県在住

吉田 裕亮 (よしだ・ひろあき) 神奈川県在住

◼︎応募総数
74件[神奈川県内27件(うち藤沢市内6件)、神奈川県外47件]

審査会の様子(左から保坂健二朗氏、小林耕平氏)

審査会の様子



<審 査 評>

小林耕平氏ポートレート

小林耕平氏[美術家]

1974年東京生まれ。武蔵野美術大学教授(油絵学科)。
非人称的でミニマルなモノクロ映像作品を起点として、2007年頃には、空間に配置するオブジェクトや日用品、自身が出演する映像等に表現を展開させ、同時にモノや事象の関係性やその認識についての世界観を問い直し、変革を与えるような取り組みを行っている。主な展覧会に、「あいちトリエンナーレ2016 虹のキャラヴァンサライ」(2016)、「小林耕平×高橋耕平 切断してみる。─二人の耕平」(豊田市美術館、2017)、個展「ゾ・ン・ビ・タ・ウ・ン」(ANOMALY、2019)、「東・海・道・中・膝・栗・毛」(東京国立近代美術館、2019)、「テレポーテーション」(黒部市美術館、2022)


 「Artists in FAS」の特徴として、未だ存在していない作品と交流イベントのプランに対して審査を行う。また作家本人から直接話を聞くことも出来ないことから、資料にある情報を頼りに作品を想像していくことになる。このことは、審査する側の想像力も問われているのだと、資料に目を通して気づいた。

 今回入選しなかったプランの中には、作品の内容も良くコンセプトも明快でプレゼンテーションとして完成度の高い資料もあったが、明快であることが想像の範囲に収まってしまい、謎が無くなってしまったものは残念ながら候補から外した。独自の方法論や思考を持っている人ほど、このような資料によるプレゼンテーションにおいて齟齬や矛盾が起きてくると思う。よって、わたしが着目したプランは、言葉を尽くしているが整合性の取れていないものほど、作家のヴィジョンが強く現れているように思え、そのヴィジョンに賭けることにした。

 わたしが特に興味を惹いたのがメランカオリで、プランでは平安時代に行われていた「辻占」を作品化するというものである。ここ藤沢市アートスペースは辻堂に位置することもあり、この土地と自身がこれまで取り組んできた「占い」を重ね合わせた企画になっている。プランから発想の面白さや、彼女なりの思考のユニークさが伝わるものの展示が一体どうなるのかイメージが掴めない。ただ、彼女のこれまでの活動紹介資料に目を通すと、どの作品も切り口が面白く、また何か特定の型に嵌ったように見えないことがわかり、今回のプランでもわたしが想定している作品という概念を壊してくれるような期待が膨んできた。

 宍倉志信の「子どもたちの庭(仮) 」は、ココテラス建物内に子供向け施設があることに着目し、フレーベルの”子どもの庭”、江戸期の覗き穴式紙芝居、恩物と賽の河原など重層的にイメージを重ね合わせたゲーム機を作成するプランであり、非の打ち所がない企画書であった。ただし、ここまでのプランでは、当たり障りのないインタラクティブな作品に思えたが、過去作P.S.Installer(2022)などの資料を見ると直接鑑賞者の思考を制御するような野心が見え、今回のプランもこどもから大人までこの作品で教育することを視野に入れていることから、何かしらの狙いがあるように思え選出した。

 吉田裕亮は、過去の資料を見ると、わたしたちが何かしらの「見えない力」の影響を受けて暮らしていることを鑑賞者へ自覚させるような装置(作品)を作っているように見えた。今回のプラン「祝日における国民精神、感情の変遷の調査・制作」においては、装置ではなく写真を使った試みになりそうだが、交流のための単なる記録媒体としての写真ではなく、写真というメディアの深層部を露わにすることを期待したい。

 小島平莉は、様々な素材(サイアノタイプ、染色技法、捺染、刺繍、織)を使い「対話空間」を作るプランとのことだが、そこではそれぞれの主体から発せられた声(言葉、体験)が同じ空間に同居し響き合うイメージとのことである。プランでは、人と人との対話がオブジェクトに置き換わり、「オブジェクト達のためのシーソーや椅子」また「配置されたオブジェクトは向き合っている」など解説されている。ここで述べられている声や言葉がどのようなプロセスでオブジェクトに変換されるのかは解説されておらず解らないが、わたしからは見えない相関によって厳密に造形されているように思え興味を惹いた。このプランに関わる人との関係に新たな提案がされることを期待したい。


保坂健二朗ポートレート

撮影:木奥恵三

保坂健二朗氏[滋賀県立美術館ディレクター]

1976年生まれ。慶應義塾大学大学院修士課程修了。2000年より20年まで東京国立近代美術館(MOMAT)に勤務。2021年より現職。企画した主な展覧会に「フランシス・ベーコン展」(2013年、MOMAT)、「Logical Emotion: Contemporary Art from Japan」(ハウス・コンストルクティヴ他、2014-15年)、「声ノマ 全身詩人、吉増剛造展」(MOMAT、2016年)、「日本の家 1945年以降の建築とくらし」(MAXXI国立21世紀美術館およびMOMAT、2016-17年)、「人間の才能 生みだすことと生きること」(滋賀県立美術館、2022年)など。公益財団法人大林財団「都市のヴィジョン」推薦選考委員、毎日デザイン賞選考委員、文化庁文化審議会文化経済部会アート振興ワーキンググループ専門委員なども務める。


以下、順不同で、選んだ案についての短評を述べます。

 吉田裕亮さんは、祝日という、それを定めている目的までもが法律の中に書かれている制度に着目。法律も絡むということで、社会や政治や行政の在り方とも、ゆるやかであれつながってくる内容となるでしょう。でもそれが「祝日」というテーマをベースにしていることで、多くの人に受け止められやすく、現代アートの多様な在り方への理解についてもつながっていくだろうと考えました。なお、スナップフォトを使う際の他者の権利の保護(主に肖像権)について書類上での言及がないことに少し不安を感じましたが、対策は可能だろうと判断しました。

 宍倉志信さんは、オリジナルのビデオゲーム作品を、江戸時代の覗き紙芝居の形式を参照しながら展示する案。FASの入っているビルに子ども向けのテナントが多いことに着目した企画書は、説得力のある内容になっていました。本人は共用部への設置を希望していて、将来的にも、ホワイトキューブ以外での発表を探っていると書かれていました。にもかかわらず、最終的に審査員側からは、ギャラリーでの展示を打診することになりました。それは、本人の希望はわかりつつも、これだけの内容を案の段階でつくれるのであれば、展覧会という標準の形式に対して批判的に取り組み、なにごとかを成し遂げてくれるのではないかと期待してしまったからです。

 小島平莉さん(レジデンスルーム)は、テキスタイルを使ったインスタレーションの案。過去作は壁面上=2次元での展開が中心のところ、今回は、3次元で展開するという意欲的な構成を、魅力的なスケッチで提案してきたところがポイントでした。また、その中に出てくる「シーソー」に対して、小島さん自身が一種のオブセッションを抱いているのではないかと企画書を読んでいて思えたこと、つまり、表現欲求のコアがきちんとしているところに信頼を抱きました。

オブセッションというのは、草間彌生さんが作品タイトルにもよく使っているように、(アーティストである以前にまずはそうであるだろう)表現者にとってとても重要なものです。そして、メランカオリさんには、まさにそれがひしひしと感じ取れました。正直、構想されている案の詳細は読み取れなかったのですが、さらっと描かれているようにも見えるドローイング自体が非常に魅力的でしたし、映像の編集センスに独自の感性を見出すことができたので、クオリティの高い作品をきっとつくってくれるだろうと考えました。

さて、女性2人、男性2人となっていることに「調整」を感じ取る人もいるかもしれません。これは本当に結果的に自然にそうなったというのが、偽らざる感想です。こういう審査で調整がもしあるとしたら、それはむしろ、いろんなメディアが存在するようにしようという方向性において働くでしょう。たとえば、テキスタイルで複数の案が候補に残った場合には、どうしても両者を比較したくなってしまいます。それでももちろん、「絶対にテキスタイルは一案に絞ろう!」などとは考えません。様々な評価軸を吟味した上で、最終判断に至ります。

 惜しくも選外となった中にも、興味深いものがたくさんありました。ここでごく一部を紹介しましょう。

 子どもを含めて市民に参加してもらいつつ市内各地で映像を撮影し、それをコマ撮りアニメーションとして動かすという案がありました。これは実施すれば確実に市民に楽しんでもらえたでしょう。しかし、審査の項目には「独創性に富んでいるか」とあり、楽しそうだけれど作品としてはちょっと既視感もあるなと感じました。

 また、根岸住宅地区という深いテーマを扱っている案がありました。しかしこれは審査項目の「会場構成に工夫が見られるか」という点で疑問が残りました。完成度は高そうだけれど、その完成度は挑戦をした上でのことではなくて、少し安全な地帯を保持しようとしているのではないかと、少なくとも私には思えたのです。

「私には」と今述べたように、アートにまつわる評価というのは点数化=数量化しづらいところがほとんどで、それゆえどうしても最後は審査員の主観に頼らざるをえません。ですので、今回惜しくも選外となった人達は、「この審査員2人にマッチしなかっただけだ」と考え、今後もさらなるパッションを持って、いろんなアイデアを練り、このAiFを含めて応募していってほしいと思います。

 そして最後になりますが、今回レジデンスに選ばれた皆様、あらためておめでとうございます。繰り返しになりますが、アートの審査がどうしても主観に頼らざるを得ない以上、小林耕平さんと私保坂は、皆さんの制作と発表に一定程度の責任を負うことになります。そして審査項目に「将来性があるか」とある以上、その責任は今回のレジデンスに限らないとも言えるのです。これからも、どうぞよろしくお願いします。

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