大正期から昭和にかけて活躍した藤沢ゆかりの木版画家、山岸主計(やまぎし・かずえ)は、著名な画家による絵や図版を木版彫刻する“彫師”としての仕事を始め、やがて自分で描いた絵を自分で彫り、摺る“創作木版画家”として制作活動を行いました。その代表的な作品が、文部省嘱託として1926年から数年滞在した欧米諸国の風景をモチーフとした『世界百景』シリーズです。展示は二部構成をとり、2019年新寄贈作品を中心に、彫師として携わった作品を前期、創作木版画作品を後期で紹介します。彫師の経験と確かな技術が、山岸の作品制作にどのような影響をもたらしたのか、その核心に迫ります。
同時に紹介するのは、二人の現代作家の作品です。
内田亜里(うちだ・あり)は、土地を取材しその土俗性や気配を感じさせる写真作品を古典技法を用いて手掛け、田中唯子(たなか・あいこ)は、世界情勢を反映したニュースや日常風景を切り取った画像などを元に一点物の版画作品を制作しています。
異なる時代を生きる三人の作家たちがとらえた「伝えたい情景」から、彼らを突き動かしてやまない創作への情熱を感じ取っていただければ幸いです。