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公募終了しました

【審査評】Artists in FAS 2022

8月31日に、Artists in FAS 2022の入選アーティストを選出する審査会を行いました。

審査員の三田村光土里氏と天野太郎氏が滞在制作および作品プランが記入された応募書類等に目を通し、それぞれ十数名程の候補者を選出しました。その候補者の中から審査員が協議し、4名(組)の入選者を決定しました。

◼︎入選(敬称略、50音順)

髙原 悠子  (たかはら・ゆうこ) 神奈川県在住

平井 亨季   (ひらい・こうき) 東京都在住

MATHRAX (ますらっくす) 神奈川県在住

宮田 恵理子 (みやた・えりこ)千葉県/スイス、バーゼル在住

◼︎応募総数
75件[神奈川県内31件(うち藤沢市内5件)、神奈川県外44件]



<審 査 評>

 三田村光土里氏(美術作家)

フィールドワークから得られる私小説的な追憶や感傷をテーマに、写真や映像、日用品など様々なメディアと組み合わせた空間作品を国内外で発表。近年の主な展覧会に、瀬戸内国際芸術祭2022、恵比寿映像祭 2022、アッセンブリッジ・ナゴヤ2020、《Japan Unlimited》 ミュージアム・クウォーター/ ウィーン (2019)、《Art & Breakfast Las Palmas de Gran Canaria》 CAAM 大西洋現代美術館 /スペイン (2017)、あいちトリエンナーレ2016
www.midorimitamura.com


滞在制作の魅力は、ゼロからものをつくる過程の「発見」と「実験」そして「発展」の全てをワンストップで表現できることにある。

土地と場所に自分を接続させる入り口を手探りで発見し、環境や素材との対話を通して何をどのような方法でつくるかを実験し、これまでの表現を更新して次のテーマを示唆する作品へと発展して行く。場所の親和性と特異性は作品に強度と高い解像度をもたらし、完成した作品を持ち込んで設営する通常の展示では得られない体験を伴うものだ。

一方、制作は変化に富んだ生き物であり、肌感覚を頼りに場所にチューニングする中で発想が浮かんでくるため、計画性と実現性を優先すると偶然を呼び込む余地を狭めてしまいかねない。審査において、能力を充分に発揮すると予想できる優れた作家を比較するのは悩ましく、「発見・実験・発展」への期待値を基準にしながらも、最終的にはここで何を生み出すのかを目撃したいという素直な衝動に従った。

平井亨季は土地や歴史にまつわる古(いにしえ)の家族の記憶を紐解きながら、史実と個人とを繋ぐナラティブをたぐり寄せ、他者としての視点にとどまらないリサーチを映像インスタレーションに昇華する。

宮田恵理子は多層な情報アプローチで、対象を俯瞰したり内側から観察したりしながら、独自の思考の断面を普遍性のある視点へと自在に変換し、場所や歴史に新しい解釈を加えるだろう。

髙原悠子の造形は感覚とエネルギーをフィジカルに押し出す迫力と伸びやかさがある。素材への独特な体幹によって、この場所で吸う空気が想像の斜め上を行く造形となって吐き出される予感に満ちている。

MATHRAXは複雑なメディア・アートを素朴な石に変身させ、それを触る鑑賞者がサウンド・インスタレーションの奏者となる。場所の空気を瞬時に変容させ人を一体感で結ぶ音の作用を体験したい。

それぞれの作家にとって、計画書には描ききれない余白から立ち上がってくる未知数の何かが、本人も予想していない気付きと確信をもたらす豊かな場所になることを期待している。


 天野太郎氏(東京オペラシティアートギャラリー チーフ・キュレーター)

北海道立近代美術館(1982-1986)、横浜美術館(1987-2015)、横浜市民ギャラリーあざみ野(2015-2021)、札幌国際芸術祭2020統括ディレクター。 多摩美術大学、女子美術大学、城西国際大学 各大学非常勤講師。国内外での数々の展覧会企画に携わる。『横浜トリエンナーレ』でキュレーター(2005年、2011/2014年はキュレトリアル・ヘッド)を務めた。現在、東京オペラシティアートギャラリー チーフ・キュレーター。


日本全国にあるアーティストのレジデンス施設の多くは、ある一定期間外界から遠ざかって作品制作に没頭、集中することが出来るメリットがあります。一方、藤沢市アートスペースが主催する事業「Artists in FAS」のように、レジデンスでの制作に加えて展示も行うことが目的とされている事業もあります。作品制作だけではなく一般公開としての展示までの事業となる訳ですので、鑑賞者を意識する必要があります。とりわけ地域の住民もその鑑賞者ですので、ある程度ここ藤沢で制作し公開する理由は求められます。審査する立場から言えば、無視できない点です。アーティストから提出された提案の中に、こうした点がどのように意識されているかをまず確認します。その基準は、大まかには3点あります。一つは、藤沢の歴史的、文化的な背景を素材とすること、二つ目は、それを踏まえつつ現在の藤沢の在り方について見直したりするような視点です。そして、三つ目は、純粋に造形活動としての表現も重視します。これまでにない、美術の在り方を見てもらいたいと言う思いです。

こうした点を前提として審査を行い、入選者3名と1組が選ばれました。最初に、選定条件として藤沢の歴史性や現在の姿などを加味している提案書であることを示しましたが、アーティストは歴史学者でもありませんので、新たな解釈で歴史的事実を提示することを期待している訳ではありません。地元藤沢を丹念に歩き調べることで、表現に繋がるホールドをアーティストらしい発想で見出し、それをもとに作品化してもらいたいというのが期待する思いです。実際に起きたことが素材になっていたとしても、そこから導き出されるのは、フィクショナルな世界観です。また、藤沢の気候など自然を題材にすることも考えられます。光の種類も異なる地での表現は、アーティスト、特に絵画を制作する場合は、非常に刺激を受ける筈です。そして、特に藤沢という地に特定しないで、造形として作品に取り組むアーティストも選定候補として考えました。それは、新しい表現を紹介したいと言う想いと、ここで制作すること自体が、逆に藤沢という地を想起させる結果を生む可能性があるからです。

今回は、まさに歴史的な掘り起こし(三浦半島にその基地跡がある第二次世界大戦中日本海軍が開発した特攻兵器について)をテーマとした平井亨季、戦前から現代までの藤沢の風景の変遷をテーマとした宮田恵理子、サウンドと石を媒介に人の繋がりを目指すMATHRAX(久世祥三、坂本茉里子)、造形言語として「木の板」を使用しながら平面と立体作品に挑む髙原悠子が選定されました。最も深刻だった昨年のコロナ禍から徐々に脱し始めた本年の応募者は、少しずつではありますが、昨年より増えたそうです。FASが位置する辻堂の駅前には大きなショッピング・モールがあります。これが完成した2011年の前と後を知っている筆者ですら、街並みなどの変化を強く感じます。様々な表現によって、藤沢の今がどう表されるのか楽しみです。


<審 査>

審査員が書類選考によりすべてのプランに目を通し、以下の項目に基づき協議して入選 4名(組)を決定。

  1. 作品のクオリティについて
    ・独創性に富んでいるか ・実験的な試みに挑戦する姿勢があるか ・将来性があるか
  2. 展示会場との親和性について
    ・会場構成に工夫がみられるか ・会場の選択理由に説得力があるか
  3. 交流イベント(ワークショップ等)について
    ・積極的に他者と交流し、自作の魅力を伝えようとしているか

※審査内容についてのお問い合わせには応じられませんのでご了承ください

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